株安の理由に、米国長期金利の上昇
現在の株安の理由の一つに、米国の長期金利の上昇が各報道にて指摘されています。では、何故金利が上昇すると、株価が下がる要因と言われるのでしょうか。
金利上昇が企業の資金調達コストを押し上げる
金融政策の変更でよく目的達成の手段として用いられる、金利操作ですが、単純に考えても金利が上がれば、企業の資金調達コストが上がることで設備投資意欲等が減退し、逆に金利を下げれば、資金調達コストが下がり、設備投資意欲が増大します。なので、金利があがれば、企業活動にはネガティブだ、だから株安要因だと考えること「も」できます。難しいのは、その解釈を「金利をあげなければならないほど景気が良い」と考えれば、逆に株高へ結びつくわけで、そのため、金利上昇で株が下がった、という見方は、後付けの考えじゃない?と思いながら、真実を考えるべきです。
金利上昇が現在価値を低下させる
金利上昇により、あまり語られないのが現在価値の低下です。報道する側も、こんなの書いても、なんのこっちゃわからないから、わかっていて書かない報道機関と、わからなくて書いてない報道機関双方あるかと思いますが、背景を理解するためには、仕組みはしっておくべきかと思います。簡単にいえば、安全度の高い国債の利回りが上がるなら、株よりそっちやればいいでしょ?という原理で、株へのマイナス要因となるわけです。
[少しややこしい話開始]
現在において株価の算定においてはDCF(ディスカウントキャッシュフロー)は常識であり、一部の日系のアナリストレポートにおいてPERで判断しているレポートも「たまに」みますが、グローバルに判定基準の常識はDCFです。DCFにおいては、将来のFCF(フリーキャッシュフロー)を”リスク”で割り引いて、現在の価値に修正して、理論株価を算定します。今回の”金利”に関与する部分は”リスク”に該当する一部分です。
この”リスク”の計算式は複雑なので、概念的な説明としますが、お金を運用しておけば得られていただろうリターンの平均に加え、投資先企業に対するリスクプレミアにて構成されます。お金の運用は常に「相対感」であり、預金金利が10%もあれば、そっちに投資するから株なんてやらんわ!という人は増加するわけで、この”リスク”という概念により、企業業績がずっとフラットだったとしても、リスク分の変動だけで株価が変わります。つまり、株は企業業績を反映する鏡だという解釈は、この意味では間違っているのです。FCF部分は企業業績次第ですが、”リスク”部分は企業業績と関係なく、理論株価を上下させます。
そして、”リスク”部分にはリスクフリーレートとして国債レートが算入されており、米国債の変動は”リスク”の値に影響します(ここでのリスクは、正確にはWACCと呼ばれます)。さらに、将来のFCFは将来の価値を現在価値に割り引くことになるため、例えばこの5年目のFCFが100でWACCが8%だった場合、その現在の価値は68.05しかありません。だってリスクフリーとされる米国金利が2%だったとして、100万円投資したら5年後には当然増加しているわけで、、、だったら現在の価値に置きなおしたら、5年後の100万円の価値は、大きく100万円を下回ります。
ではWACCが9%になったらどうでしょう。5年後のFCFの現在価値は、先ほどの68.05から64.99になります。なので、企業業績≒FCFが一定の条件下においてWACCが上昇する≒米国金利が上昇すると、株安要因に作用するという考えもできるわけです。でもFCFが伸びれば、WACC部分による理論株価減少をカバーして、理論株価は上昇することもできます。なので、金利があがれば株価は下がると言い切れないわけです。
という背景を理解して頂ければ、株価が時折、何故、金利を気にして急落するのか、その後、再び株価が上昇するときも何故あるのかが見えてくるでしょうし、金利上昇で下がった時の心づもりも変わってくることかと思っております。株価は”企業業績(正確にいうとFCF)”と”リスク(正確にいうとWACC)”にて構成されるのです。さらに詳細を知りたい方はDCFで色々検索すると良いでしょう。もしくはマッキンゼーのValuationの書籍が良いかと思います。
[少しややこしい話終わり]
不況下の株高が起こる要因
過去をみても株高は不況下において開始されます。上記をお読みの方は既にお気づきかと思いますが、需要減及び金融政策の変更により金利が下がり、企業業績部分より”リスク”部分が株高に先行して作用して、株高が開始されます。そしてその後、企業業績部分が改善しだし、株価がさらに上昇していきます。
現在は業績が牽引する段階へ
足元は企業業績が伸びつつも、”リスク”部分の悪化が中長期的に想定されます。”リスク”部分の変動で株価は上がったり下がったりの効果が発揮され、株価が落ち着かない今のような状況は発生するかもしれませんが、企業業績部分は伸びが期待できる企業が米国、そして日本の一部企業に存在するため、それらに投資していけば、まだまだ儲けることができる相場状況が続行していると認識でいます。
今回はややこしかったですが、超ロングスパンにおいて、重要な考えの基礎であると思っております。
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